脊椎動物の光情報伝達カスケード
光情報伝達カスケードの概要
光の受容は視細胞のの外節と呼ばれる部分で行われます。脊椎動物の桿体では、外節の部分に円板膜と呼ばれるつぶれた小胞が数十から数百枚積み重なっており、この膜を利用して光情報が受容・増幅されます。現在までの研究により、光情報伝達に関与する10種以上のタンパク質(光情報伝達系タンパク質)が同定されています。一連の伝達過程で情報がなだれ式に増幅されるので、この光情報伝達システムは光情報伝達カスケードと呼ばれています。
光情報伝達系タンパク質の系統関係
私たちは、視物質の場合と同様、これらの光情報伝達系タンパク質に関しても分子系統を調べることにしました。哺乳類のみしか研究されていないタンパク質も多かったので、特に魚類や両生類を中心として調べました。その結果を示したのが上図です。オプシンには5種のサブファミリーが存在していたわけですが、それ以外の光情報伝達系タンパク質には1〜3程度のサブファミリーしか存在していませんでした。そのサブファミリーの一つは、錐体に発現するタンパク質のサブタイプ(アイソフォームと呼ぶこともある)を含んでおり、他は桿体特異的に発現するサブタイプを含んでいました。錐体では発現するオプシンが違っても、他の光情報伝達系タンパク質は基本的に同一でした。
光情報伝達系タンパク質のサブタイプ
では、それらの情報伝達系タンパク質サブタイプに、オプシンの場合のような性質の違い(オプシンの発現調節が視細胞の色感受性を決定する。脊椎動物の視物質参照)はあるのでしょうか? 調べたいくつかのタンパク質においては、桿体視細胞と錐体視細胞の感度に影響を及ぼすであろうと考えられるような違いが見いだされました。
以下のリンクでは、オプシンキナーゼとS-モジュリンに関して、サブタイプの性質の違いを概説します。
オプシンキナーゼ(メダカ)
S-モジュリン(ウシガエル)
光情報変換システムの基本形
左図は、オプシンを含めた光情報伝達系の研究をまとめたもので、視細胞が緑感受性の錐体に機能分化している状態を示したものです。桿体と錐体とでは異なる光情報変換系タンパク質セットが発現していますが、錐体ではオプシンの発現が異なっても他のタンパク質は同一です。このことは、(2)光情報変換系タンパク質サブファミリーの存在とその発現調節が、それぞれの視細胞の感度を多様化させていることを意味しています。
最近の研究により、錐体タイプのサブタイプが消失したり、桿体タイプのサブタイプが2種になったりしている場合があることも分かってきました。脊椎動物の光情報伝達システムは、図に示したような基本的な形を持ちながらも、それぞれの動物の生息場所の光環境や習性に対応して、動的に進化していると考えられます。
参考文献 :
Hisatomi, O. and Tokunaga, F. (2002) Molecular evolution of proteins involved in vertebrate phototransduction. Comp. Biochem. Physiol. 133B, 509-522. [PubMed]
久冨修、徳永史生 (2002) 視細胞分化における視物質の転写調節、Molecular Medicine、39別冊(網膜・視神経の発生と再生、福田淳編集)pp19-27. [abstract]
久冨修、徳永史生 (2000) 魚類の視物質の分子進化、蛋白質核酸酵素別冊、45(17), 2924-2930. [abstract]
久冨修、徳永史生 (1998) 光受容系の分子進化、生物物理、38(1), 4-8. [abstract]
リンク
脊椎動物の光受容システムの概要
視覚と視細胞
脊椎動物の視物質
光情報伝達に関与するタンパク質(詳細)
メダカの視物質キナーゼ
メダカのアレスチン
メダカのフォスデューシン(PD)
メダカのGCとGCAP
ウシガエル・S-モジュリン
その他
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