解析手法

Last updated 2015.2.12


ブラウン運動の解析

 水で満たされた細い水路にインクを一滴たらすと、インクは左図のように時間とともに拡散していく。この場合、インクの濃度変化は一次元の拡散方程式で表される。それぞれの粒子はブラウン運動をしながらランダムに拡散していく。ここで、Dは拡散係数で温度の関数となっている。いま、粒子が半径rで体積がVの球体であると仮定した場合、粒子の並進および回転の拡散係数は以下に示すように表される。

動的光散乱法(DLS)

 サンプルにレーザー光を当て、狭い(μmオーダー)スリットを通過する散乱光の強度変化をμ秒のスケールで観測する(左図)。分子量が小さい場合はブラウン運動が大きいため散乱強度の変化は短時間で起こるが、複合体が形成されるとブラウン運動が小さくなり散乱強度の変化速度は減少する。この散乱強度変化を測定することにより、水和した分子の流体力学的半径が算出される(右図)。

蛍光相関分光法(FCS)

 蛍光物質で標識した分子に対し、集光した光を照射し、微小領域(10-15L程度)から発せられる蛍光の強度を観測する。蛍光の強度変化から、各分子が微小領域にとどまる時間を算出し、拡散定数の変化を検出する。

蛍光偏光解消法

 蛍光物質で標識したサンプルに偏光した光を当て、蛍光の偏光度を観測する。遷移双極子モーメントが偏光方向に垂直な場合は蛍光物質は励起されないが、一致している場合は高い確率で励起され、遷移双極子モーメントに応じた方向に偏光した蛍光を放出する(左図)。分子量が小さい場合はブラウン運動が大きく、励起してから蛍光を発するまでに分子が回転して蛍光の偏光が解消される。複合体が形成されるとブラウン運動が小さくなり分子の回転も遅くなるので蛍光の偏光が解消されにくい。この偏光解消度を測定することにより、分子の流体力学的体積が算出される(右図)。


その他の解析手法

蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)

 2種の蛍光物質が近接して存在する場合、一方(ドナー)が励起されるとそのエネルギーが他方(アクセプター)に移動し励起されることがある。この現象は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と呼ばれている。左図の場合、ドナーであるGFPを励起することにより、アクセプターであるCy3が励起される。FRETの効率はkfに依存し、両蛍光物質間のスペクトルの重なり(スペクトルの斜線部分)や距離により変化する。したがって、GFP融合タンパク質とDNAへの結合や、形成された複合体の蛍光物質間距離を見積もることができる。

水晶振動子マイクロバランス(QCM)

 水晶板の両面を金電極ではさんだものに交流電圧をかけると、27MHzの滑り振動が誘起される(左図)。分子が金電極に吸着した場合、振動の周波数がわずかに(ΔF)変化する。結合した分子の総質量とΔFには右に示したような関係があるので、そこから結合した分子の質量を求めることができる。分子間の相互作用を観測する場合には、あらかじめ片方の分子を金表面に結合させておき、もう一方の分子を付加する前後での周波数変化を調べる。


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